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2008年1月10日 (木曜日)

「七草粥」

「七草粥」
(東方Project 東風谷早苗SS)
(初出:H20.1.7[8] 東方創想話 作品集48に投稿)


「早苗、今日の晩ご飯は…あれ!?」
 勢いよく襖を開けて入ってきた八坂様が、囲炉裏のお鍋を見て、意外そうな表情を浮かべた。
「あれ? お粥?」
「…はい。今日の晩ご飯はお粥さんですよ」
 私はさも「当然だろう」という感じで答える。八坂様は豪勢な食事(…と言っても宴会で余った料理の使い回しだけど…)と晩酌を期待していた様で、面食らった表情を浮かべている。ふふっ、その反応、予想通りですよ、八坂様。
「さなえー、ごはんは…あれ!?」
 遅れて入ってきた諏訪子様も、鍋を覗き込んで、同じように固まってしまう。
「お、おかゆ?」
「ええと、もう筒粥神事の時期だったっけ?」
「…筒粥神事はもう一週間程後ですよ、八坂様」私はため息をついた。神様本人が大事な神事の日程を忘れてどうするのだろう。
「ということは…」お二人が顔を見合わせる。「まさか、本当に今日の晩ご飯はお粥だけ!?」
「そうです、お粥だけです」縋り付く様な二人の視線に、きっぱりと答える。

「……………」「……………」
 お二人とも何だか不満そうに囲炉裏を見つめる。その視線の先で、お鍋の中ではお粥がことことと小気味の良い音を立てていた。
「え、えっと…何で?」
「今日は一月の七日。だから今日は七草粥です」きっぱりと答える。
「えっ、今日ってまだ三日くらいじゃなかったっけ」
「神奈子も? 私は四日あたりだと思ってたよ」
 お二人の惚けた会話を聞いて、私はため息をついた。宴会のやりすぎでずっと正月モード。日時の感覚が麻痺しているのだ。前からもそんなところはあったけど、幻想郷に来てからは宴会続きで更にひどくなったのか、ずっとこの調子なのだ。
 それだけでなく、この前の元日に至っては、蛙狩神事を完全に忘れてすっぽかす始末。その時に指摘した私への八坂様の返事が「別にいいじゃない」だったので、呆れて物も言えなかった。個人的にあの神事は何だか残酷で好きじゃなかったし、それに…あの時は大晦日に飲まされて二日酔いで考えが回らなかったので、そのまま流されてしまった。けれども、これからも重要な神事は次々と予定されているのだ。幻想郷に来てからは初めてとなる、大切な神事の数々。滞り無く行い信仰を集めるためにも、お二人にはそろそろしっかりしていただかなくてはならなかった。


「……………」
 不満そうな表情を浮かべていた八坂様が、おもむろに後ろの開きに手を掛けた。…もちろん、事前に対処済みだ。
「…そこにお酒は無いですよ八坂様。片付けさせていただきました」
「「ええーっ!?」」
 八坂様と一緒に、諏訪子様までが情けない声を上げる。
「ひどいよ早苗…」
 …上目遣いで見てもダメです。
「今日は七草。お酒は休みです。明日からの日常生活に備え、七草粥を食べて、年末年始の暴飲暴食で疲れた胃を休め、回復させるのです」
「…別に疲れてないよね、胃」
「うん、まだ飲み足りないかな。だから早苗、お酒を…」
「ダメです! お正月は今日でおしまい。お酒も宴会もおしまいです。明日からは日常に戻っていただきます!」
 きっぱりと宣言する様に言うと、二人は不満そうな表情で黙り込んでしまった。


 そうこうしているうちに、お鍋からはいい香りが漂ってきた。
「さ、できたようですよお二人とも。いただきましょう」
 軽くかき混ぜながら、八坂様のお茶碗にお粥をよそう。少しかわいそうな気がしてきたので、おこげを少し多めによそってさしあげた。
「はい、八坂様」
「…ありがと」少し不満そうに受け取る八坂様。
 諏訪子様にも同じようにお粥をよそう。蛙のイラストが描かれたプラスチック製のお茶碗に、後でけんかにならないように八坂様と同じくらいだけおこげを入れる。諏訪子様は八坂様よりもこの手の勝ち負けにこだわるタイプなので、少しサービスしてトロトロになったかぶらを多めに入れてさしあげた。
「はい、諏訪子様の分です」
「ありがと、早苗。…あの、お粥だけ? おかずは無いの?」
「しおこんぶがありますよ」
 私は器からしおこんぶを小皿に入れて、諏訪子様に手渡した。
「あ、ありがと」
 お礼を言う諏訪子様。期待していた物とは違う、と言いたげな表情だったが、そんな顔をしてもおかずは出ない。今日はあくまでもお粥の日なのだ。そして、今日この七草粥を食べる事には明確な目的がある。ここで改めて言い聞かせておかねば。
「…いいですかお二人とも。いくら必要かもしれないとは言え、最近は毎日毎日宴会ばかり続きすぎです。今日の七草を機に、そろそろけじめをつけて、本来の神様としての生活に戻っていただきます」
「いやいや早苗。宴会は神様の勤めだよ。ねえ?」「ねー」
 二人顔を見合わせて頷く八坂様と諏訪子様。
「幻想郷に溶け込み、新たな信仰を集めるためにも積極的に宴会に参加して…」
「それにしても続きすぎです!」八坂様の言葉を遮って、私は声を上げた。
「どうしてこう毎日毎日毎日、宴会が続くんですか。ここまで続けなくてもいいじゃないですか」
「そうかなぁ…」「そうかもしれないけど…」
「お二人はいいかもしれませんが、付き合わされる私は大変なんです。来る人来る人にいじられたり、飲めないのにお酒を勧められたりする身にもなってください!」
 思わず大声を出してしまう。
「まったく、八坂様も諏訪子様も、全然私の事を判って下さらないのですね。お酒や騒ぐ事に夢中で…。少しは私の事も心配して下さいよ」
「…そんな事言ったら、神奈子がかわいそうだよ早苗」
「うんうん。私も諏訪子も、早苗の事をいつも心配してるよ」
 私の言葉に、お二人は顔色を曇らせる。だけど、ここで折れちゃだめだ。
「心配って、八坂様はお酒を飲んで、会う人会う人全部に私にお酒を飲ませるようにけしかけているだけじゃないですか。八坂様は楽しいかもしれませんが、私がどれだけ苦労していると思っているんですか。そんな事は心配しているとは言いません。まったく…」
 私はため息をついた。何も考えていないとしか思えない。昨日まで(正確には今朝まで)の宴会を思い出すだけで二日酔いで頭が痛くなりそうだ。ここでしっかり言い聞かせておかないと、これからもお二人は調子に乗って繰り返すに決まっている。ここは心を鬼にしないと。
「…そんな反省のない八坂様には、しおこんぶ抜きです!」
「ええ~っ…!?」
 がっくりと肩を落とす八坂様。
「早苗、そんなに怒らなくても…」
「いいえ。この機会ですからお粥を噛み締めて、じっくりと反省して下さい」
 八坂様が何か言いたげな目で私を見るが、構わずに私は手を合わせる。ぱちん、と思ったよりも大きな音がして、自分でも驚いてしまう。自分で思っている以上に苛立っているのかも知れなかった。
「それでは、いただきますよ、お二人とも。手を合わせて下さい」
 私の言葉に、渋々手を合わせるお二人。
「「「いただきまーす」…」」


 手を合わせて、三人で食べ始める。久しぶりの…少なくとも年が明けてからは初めての、宴会以外のまともな食事だった。うん、朝から二日酔いが残る中で頑張って用意して良かった。
 しおこんぶ抜きの八坂様は、私と諏訪子様の方をちらちらと不満げに見ながら…それでも黙々とお粥を口に運んでいた。
「…神奈子、しおこんぶ、分けてあげようか?」
 諏訪子様が見かねて声を掛けるが、私は遮った。
「ダメです! これは罰なのですから」
「ううっ、自分の巫女に神罰をくらうなんて、世も末だね…」
 愚痴を言いながらお粥を口に運ぶ八坂様。私も黙々とお粥を食べる。何だか気まずい空気の中、進む食事。自信作だった筈なのに、雰囲気が良くないせいかお粥はあまり美味しくなかった。
(ちょっと言い過ぎたかなぁ。でも、これくらい言わないと…)
 そんな事を考えはじめた時…
「こんばんは~」「いらっしゃいますか?」
 襖の外から、羽音と共に声が舞い降りてきた。あれ、確かこの声は…。
「はいはーい」
 諏訪子様が襖を開ける。そこから顔を見せたのは…やっぱり天狗の二人組だった。


「こんばんはー」「あ、いらっしゃい」
 新聞記者のしゃめいるさんと、犬走椛さん。椛さんとは最近仲良くなったけど、しゃめいるさんの方は宴会でお酒をしつこく勧めて来たり、取材と称してプライベートな事をしつこく聞いて来たりといろいろ絡んでくるので、正直苦手だった。
「早苗さん、こんばんは」私と目が合った椛さんが嬉しそうに声をかけてくれた。
「こんばんは、椛さん、しゃめいるさん」
「射命丸ですよ、東風谷早苗さん」名前を間違われて、しゃめいる…射命丸さんが苦笑いを浮かべた。
「あー、名前を憶えてないなんて、いけないんだー」しおこんぶの事を根に持っているのか、ここぞとばかりに八坂様が囃し立てる。
「も、申し訳ありません…」
「まあまあ、そんなにお気になさらずに。…今日はにとりさんからきゅうりを分けて貰ったので、お裾分けに来ました。いつもお世話になっていますし」
 そう言って射命丸さんが差し出したザルの中には、きゅうりが山盛りになって入っていた。
「あ、ありがとうございます…」
 射命丸さんからザルを受け取る。山盛りのきゅうりは、ずしりと重かった。
「にとりさんも皆さんによろしく、と言ってましたよ」
「わざわざすまないね」
「いえいえー」八坂様のお礼に、射命丸さんは照れくさそうに手を振った。「いつも宴会でお世話になってますから」
「…あ、話題は変わるのですが、実はもう一つ用事というか、質問があって来たのですよ」
「しつもんって?」
 諏訪子様の言葉に、射命丸さんはメモを取り出しながら続けた。
「えっと、明後日からの十日戎の開催日程についてなのですけど、例のレースは十日の朝六時スタートで良かったでしたっけ?」
 射命丸さんの質問に、八坂様は「うーん」と少し考え込んだ。
「ああ、それなんだけど…本来ならその時間なんだけど、この時期の朝は寒いし、まだ暗いから、お昼スタートにしようかと思ってるのよ」
「あ、それは取材する方としても助かります。時間はどうしましょう」
「うーん、お昼を食べてからということで、二時くらいでどうかな」
 さすがは八坂様。二時というのはいいアイデアではないでしょうか。……って!
「…ちょ、ちょっと待ってください! 何ですか、その十日戎って」
「えっ?」私の質問に、八坂様は「何言ってるの」と言わんばかりの表情を浮かべた。「十日戎と言えば十日戎に決まってるじゃない。『外』でもあったでしょ? 商売繁盛を三日間願って、朝は開門時にここまで誰が最初に来られるかレースをするの」
「ええっ!?」完全に初耳なのですが。
「うちはオンバシラですよ。ミシャグジ様ですよ。えびす様は関係ないじゃないですか」
「細かい事は気にしないの。楽しそうだからいいじゃない」
「滝からここの神社まで誰が最初にたどり着けるか、笹を持ってよーいドンでレースをするんだよね。勝った人が今年の福娘になれるの」
「楽しみですー。天狗の血が騒ぎますよね」椛さんも相槌を打っている。ひょっとして天狗さんたち…というか、山の妖怪、更には幻想郷のみんなにも伝達済み!?
 私の疑問の表情に、満面の笑みを浮かべて射命丸さんが頷いた。「あ、勿論打ち上げ付きですよ。楽しみにしておいて下さいね」
 そ、そんな…私は膝の力が抜けていくような感じがした。折角、正月気分を断ち切ろうと七草粥をやったのに、そのすぐ後にこんな事をするなんて…。
「ど、どうしてそんなイベントを勝手に決めるんですか? 私に一言の相談も無しに…」
「えー。だって宴会で話題が盛り上がってその場のノリで…」
 私の抗議に、しれっと応える八坂様。慌てて椛さんがフォローを入れる。
「あ、あの、お話が決まったときは早苗さんは酔いつぶれて寝ておられたので…」
「楽しそうだからいいじゃない。打ち上げも楽しみだよね」
「そ、そんな事勝手に決められても、私は…」
「あ、あの…」くいっと袖を引っ張られて横を見ると、椛さんが残念そうな表情を浮かべていた。「もしかして、早苗さんは出られないんですか…?」
「えっと、あの…でも、」
「…勿論、出るわよ」私が口を開く前に八坂様が返事をした。「早苗はうちの大切な巫女。神事には欠かせないからね」
「あ、あの、ちょっと、八坂様!?」
「…だから、当日も早苗と遊んであげてね」
「はいっ」椛さんが嬉しそうに頷いた。「勿論です!」
 椛さんの言葉が何だか嬉しくて…結局、「出ません」とは言えなくなってしまった。


「あ、ではこれで失礼します。時間については皆さんに連絡しておきますね。新聞でも告知しますので。…それでは、十日戎楽しみにしてます」
 ぺこりと頭を下げて、射命丸さんが帰っていく。その後を追って椛さんも帰り支度をしていた。
「あ、あの、椛さん」
 椛さんを引き留める。せめてもの予防線で「出られるかわからない」とでも言っておかないと…。しかし、
「あの、ありがとうございます、早苗さん。出て下さって嬉しいです」
「は、はい…」
 心底嬉しそうな椛さんの笑顔に、何も言えなくなってしまった。
「…それじゃあ、当日お会いできるのを楽しみにしてますね、早苗さん」
 ちぎれんばかりに手を振りながら帰っていく椛さんに、私も手を振って応える。椛さんは滝の方に下りていくまで、ずっと手を振ってくれていた。


(どうしよう。椛さんが誘ってくれたのは嬉しいけど、またこんなイベントなんて…)
 椛さんたちが飛び去った空を眺めながら、呆然として考える。本当にどうしよう…。
「早苗」
 ぽんっと、後ろから肩を叩かれる。びくっとして振り向くと、すぐ後ろに八坂様が立っていた。
「…良かったね、早苗」
「! 何が良かったですか八坂様! こんな行事を勝手に…」
「その事じゃないよ、早苗」
 八坂様が首を横に振って…ぽん、と私の両肩に掌を乗せた。
「こっちで、仲のいい子ができたんだね。嬉しいよ。本当に良かったね」

(…えっ!?)

「今度の十日戎でも、みんなと楽しく遊べて、仲良くできる友達ができればいいね」
「大丈夫。きっと楽しいイベントになるよ。楽しみだね、早苗」
 後ろで諏訪子さまも頷いていた。
「そうだね。今度来てくれる人たちも、これまでの宴会でみんな早苗の事は知ってるし、きっと仲良くなれるよ」
「八坂様…」
 八坂様の言葉に、私はようやく気が付いた。
 もしかして、これまでのよくわからないイベントの数々も、そして宴会も…。そして宴会で八坂様がお酒ネタでみんなを巻き込んで、やたら絡んで来たのも…。
 全て、幻想郷のみんなが私の事を憶えてくれるように…私がみんなと打ち解ける事が出来るようにやっていた事!?
 「向こう」にいたときから、引っ込み事案で、人付き合いが苦手だった私。幼い時から、八坂様と諏訪子様のお二人だけが私の話し相手で、お二人だけが私の友達で…そして、お二人だけが、私の家族だった。こちらに来て、あんな事があってからしばらくは落ち込んでしまって、一人で沈んだり、塞ぎ込んだりする事が多かった。
 …思えば、宴会が始まったのもそんな頃からだった気がする。ずっと、お二人の我儘に振り回されていただけだと思っていたけど、気が付けば、いつの間にか、今の私は…。
 …確かにあんな事がないと、人見知りで、そしてお酒が…宴会のような賑やかな場が苦手な私が、こうして多くの人たちとお話しして、顔見知りになって、名前を憶えて貰ったりする事も。そして…こうして今、椛さんと仲良くなれる事もなかった気がする。
 外ではどちらかと言えば(今よりは)おとなしい、普通の神様だった八坂様と諏訪子様。幻想郷に来てから急にこんな事をし始めたのは、単に「ハメが外れた」からだと思っていたけれど…。
 みんな、私のために…私の事を思ってしてくれていた事なんだ…。


 目を上げると、八坂様が静かに微笑んで…優しく、私をみつめていた。
「ねえ、早苗」
「…はい」
「確かに早苗の言う通りだね。こっちに来てから、最近ずっと宴会を続けてきたけど、実は私も、もう続けなくていいかなって…もうそろそろ、大丈夫かなって思ってたんだ」
「うん、私もそう思ってたよ、早苗」
「八坂様…諏訪子様…」
「ねえ、早苗」私の目をみつめながら、八坂様が私に尋ねる。
「…もう、大丈夫だよね?」
 その言葉に、私は、少しだけ考えて…こくりと頷いた。
「はい。私は、…もう大丈夫だと思います。ありがとうございます、八坂様」


「…あの、八坂様」
「なあに?」
「やっぱり、しおこんぶ、食べてもいいです」
 小皿からしおこんぶを箸でひとつまみ、八坂様のお粥に乗せて差し上げると、八坂様は嬉しそうにお箸を口に運んだ。
「ありがと。それと、今貰ったきゅうりを切ってもらって来ていいかな?」
「あ、はい、わかりました。すぐにご用意しますね」
 私はきゅうりを盛ったザルを手に、台所に向かう。

「…良かったね、神奈子」
 後にした居間から、諏訪子様の声が聞こえて来た。


 台所で、きゅうりをザルごと軽く水洗いして、とんとんと水を切る。
「……………」
 胸に染みてくるような静けさの中…見上げると、目に映った天井の模様が、何故だかぼんやりとにじんで見えてきた。

 …そうか。
 これまでも、こちらに来てからも、ずっと不安だったけど。
 向こうでも、そして、こちらでも。ずっとひとりぼっちなんだと思っていたけど。
 そうじゃなかったんだ。

 椛さんや、こちらで新しく知り合った人たちが。
 そして何より、八坂様、諏訪子様のお二人が。
 …いつも、私の事を気に掛けていてくれていたんだ。見守っていてくれていたんだ。

 みんな、私の周りで、そしてすぐ側で…いつも、私の事を見守ってくれている。大切に思ってくれている。
 本当は、これまでもずっとそうだったという事。そしてこれからもずっとそうである事。
 …その事が、本当に嬉しかった。


「…すいません、遅くなりました」
「あれ? どうしたの早苗。目が赤…」
 言った側から八坂様に頭を叩かれる諏訪子様。私は苦笑いしながら…そっと目尻を拭った。
「何でもありませんよ。どうも幻想郷ではきゅうりも目に染みるみたいで…」
 そんな事を言いながら、輪切りにしたきゅうりを小皿に取ってお二人に渡す。
「ありがと、早苗」「ありがとー」
 手渡す時…私の手は、八坂様と諏訪子様の暖かい掌に触れた。


「それじゃ、改めて、いただきましょうか」
「うんっ」「はいっ」
 私たちは、三人向かい合って手を合わせた。
「それじゃ、お願いね、早苗」
「はい」
 私は、すうっと息を吸って…胸の中に溜まっていた言葉を吐き出した。
「それでは、改めまして。今年も。…いえ、これからも、宜しくお願いしますね」
「勿論よ」「うんっ。私たちは、早苗の神様だからね」
 お二人の声が、私の心の中を満たしていく。
 …ありがとうございます。八坂様、諏訪子様。

「それでは、改めまして…いただきます」
「「いただきます」」


 お二人と一緒に食べた、暖かい七草粥。この日に食べた七草粥は…私にとって、ずっと、ずっと忘れられない味になった。

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