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2010年9月 1日 (水曜日)

「さよなら、ジャコス」

◆「さよなら、ジャコス」(黄昏のシンセミア 岩永翔子SS)(初出:H22.9.1)

 ……次は、御奈神、御奈神。

 車内のアナウンスが、次の停車駅を告げる。
 御奈神、の名前に、俺は向かいに座っている少女に目を遣る。
 上目遣いで俺を見つめていた少女……翔子ちゃんは、静かに俺の手を握りしめて、にっこりと微笑んだ。
「帰ってきたね、お兄ちゃん」
「……そうだな」

 あれから、何年の月日が経っただろうか。
 ついに、俺たちは。俺と、翔子ちゃんは。ふるさとに。御奈神に帰ってきた。

 俺たちを過酷な運命に追いやった二つの石は、まだ変わらずに俺たちの中に残っている。
 だけどもう……石は、俺たちの運命を狂わせる事はない。
 ここに来るまでに本当にいろいろな事があったけれど。今となっては、この呪われた石も。御奈神の地に伝わる宿命も。俺たちを一緒にしてくれるためにあったのではないかと思えてきた。
 そうだ。
 本当にいろいろな事があったけれど。
 俺の一番大切な女の子は。翔子ちゃんは。
 今こうして、俺の側にいてくれるのだから……。
 俺はもう一度確かめるように、ぎゅっと翔子ちゃんの手を握りしめた。

「どうしたの? お兄ちゃん?」
「なんでもない。……帰ってきたなぁって思って」少し恥ずかしくなって窓の外に目を移す。
「御奈神に着いたら、まずはどこに行こうか?」
 勿論、翔子ちゃんの返事は決まっていた。
「ジャコス行こうね、ジャコス!」
「……そうだな」


 ……………


 電車が着いて、御奈神の駅に降り立つ。
 改札から出るまで、翔子ちゃんはずっとそわそわしていた。
 ジャコスに行きたくてたまらないのだろう。
「ジャコスっ、ジャコスっ」
 気持ちを確かめるまでもなく、弾んだ声で口ずさむ翔子ちゃん。変わらないその姿が……堪らなく愛おしかった。

 ……そうだな。
 御奈神に戻ってきたら、行こうと思っていた所は山ほどある。だけど、まずはジャコスに行こう。
 みんなに再会する前にお土産も買っておきたいし。それに、何より……こんなに翔子ちゃんがジャコスに行きたがっているのだから。
 俺が大好きな翔子ちゃんの笑顔。ジャコスの中で見るその笑顔はきっと……最高に輝いて見える事だろう。


「それじゃ、ジャコス行こうか」
「うんっ!」
 翔子ちゃんの手を取って、懐かしい駅前を歩き始める。
 何年も経っている筈なのに、いくつかお店は変わっている程度で、この駅前はあまり変わっていない。
 少し歩けばすぐにジャコスの看板が……。

「あれ……?」
 そこで、ふと違和感を感じた。
 目に映る景色が、あきらかに以前とは違っている。その違和感は……翔子ちゃんも感じているようだった。

 その違和感の正体は……俺たちが向かう先にあった。
「え……っ?」
 前の建物に目を遣った翔子ちゃんの動きが止まる。

 ……そこにあったのは、ジャコスの看板ではなかった。
 赤い波に葉っぱのジャコスの特徴的なマークはそこには無く……まったく違ったものに描き換えられてしまっていた。
「ジャコスの看板じゃ……ない!?」
 店の看板が無くなっている。
 その事が示す意味は……一つしかなかった。

「あ、あのね、翔子ちゃん」
 慌てて翔子ちゃんに声を掛ける。だが、もう遅かった。
「そ、そんな……」
 翔子ちゃんの膝の力が抜けて身体ががくり、と沈み込む。俺は慌てて肩を支えるように抱きしめた。
「翔子ちゃん!」
「お兄ちゃん……」応える翔子ちゃんの声が。そして身体ががくがくと震えている。俺にはその気持ちが痛いほど伝わって来た。
「お兄ちゃん。ジャコス……なくなっちゃったの?」
「え、ええと、その……」
「もう、ジャコスには行けないの?」
「……………」
「私……お兄ちゃんともう一度、ジャコスに行きたい。ジャコスで一緒に遊びたい。ジャコスで……いろんなものを買って欲しい。そう思って、今まで頑張って来たのに……」
「なのに、ジャコスがもう、無くなっちゃったなんて……」
「翔子ちゃん……」


「そんなのって……。そんなのってないよ!!!!!!!」
 翔子ちゃんが感情を爆発させる。

 その声とほぼ同時に、街中に悲鳴が響いた。
「!」
 慌てて周囲を見渡す。
 山の方から、線路の向かい側から。そして、その他にも、至る場所から……異形の影が飛び出してきた。
 動物の形を保っている物。もう崩れだしてしまっているモノ。そして歪な人の形をしているもの。
 飛び出してきた影達が、俺たちを目指して駆け寄ってくる。
 克服した筈の、そして……もう、こんな形で見る事はないだろうと思っていた光景だった。

 ダメだ。このままでは、こんな街中で暴走させてしまっては、全てが水の泡になってしまう。

「翔子ちゃん、落ち着いて!」
 必死になって呼びかける。だけど……止まらない。
 異形の者達の動きも。そして……翔子ちゃんの涙も。

 そして、駆け寄ってくる物達の姿を、表情を見て……俺は気づいてしまった。

 これは……翔子ちゃんの心が暴走したからじゃない。
 その事が、すぐに、俺にも判った。
 だって彼らは。
 みんな……例外なく、涙を流していたのだから。

 今なら……俺にも、彼らの気持ちがわかる。
 みんなも……行きたかったんだ。
 翔子ちゃんと一緒に、ジャコスに……行きたかったんだ……。

 痛いほど気持ちが伝わってくる。
 そうだ。俺も、みんなと同じ思いなのだから。
 俺も。翔子ちゃんと一緒に、ジャコスに行きたかったのに。

 それなのに。……それなのに!

「翔子ちゃん!」
 震える身体を抱きしめる。
 もう……溢れる涙は止まらない。

 騒ぎと悲鳴に包まれた御奈神の駅前で。
 もうジャコスの無い、御奈神の街で。
 多くの影達に囲まれて、俺たちは……いつまでも、いつまでも、泣き続けていた。

■■■ ↓ここから本編 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■「黄昏のシンセミア」感想日記:目次
 http://september.moe-nifty.com/kikyo/2010/07/post-476b.html

■イオン 「ジャスコ」「サティ」もイオンに名称統一へ

 http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100827/biz1008270838001-n1.htm

 というわけで、先日にジャコス考察日記を書いた直後という実にタイムリーな時期に、大変ショッキングなニュースが飛び込んできました。
(ニュース自身は先週末に出てきたものなので、少し時間が経ってしまっていますが)

 前回のジャスコ考察日記でも取り上げましたが、確かにイオン系の各スーパーは(サティ/マイカル系も含めて)膨張し続けて来ましたし、この辺りで一息ついて整理すべき時なのかもしれません。

 私は、イオン系列の店は「商店街」や「町角のお店」そして「駄菓子屋」など、昭和の「古き良きお店」の居場所を奪う形で成長した会社だと思っているので、個人的には好きではありません。しかし、こうした役割はイオンが台頭しなくても別のどこかがやっていた事だと思いますし、不況もあって、現モデルでの成長の限界に達したこうした業種が、今後どこに向かっていくのかは興味深いです。
 まあ、嫌いだとかどうとか言いつつも、お店の位置関係的に、私の一家が土日に買い物に行くのもイオンなのですが(笑) そちらも地主が土地の賃貸契約の更新を渋っているらしくてどうなるか判らない状態らしいです。売り場の面積が減って、家電量販店が引っ越してきたりしていますし……。いきなりイオン自体がどうなるか、というレベルではないとは思いますが、少なくとも業種としての膨張は止まったと言えるような気がします。

 今後どうなるかは判りませんが、こうした商店についても、全く新しい形の物がでて来るのかもしれませんね。

 そんなわけで、次回の「あっぷりけ」作品では、また違ったスーパーや商店街に萌える少女が出てくるのかもしれません。
(話が脱線しすぎたので、むりやり「黄昏のシンセミア」に関係あるっぽい話で締めてみました(笑))


■御奈神村報の最終回待ち

 そんなわけで、「黄昏のシンセミア」の感想や考察日記を書き始めたものの、途中でジャコスに脱線して本題に戻れない状態が続いているのですが、今のところは、もう少しで最終回がうpされると予想される「御奈神村報」の最終回を待とうと思っています。

 特にネタバレページで銀子さんが何を口走るか判らないですし……。
 羽衣関係についてかなり喋ってくれましたし、まさか次女について銀子さん自らがフォローする発言があるとは思いませんでした。
 考察日記を書いた直後に答えそのものが出たりしても何なので、村報の終了後にまったりと書き進めたいと思います。


 後は、多分最終回と同時に人気投票の発表があると思われますので、結果に注目しています。
 美里お姉ちゃんに、少しでも票が入っていたらいいなぁ……。

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